小島なお「性愛をまだ知らないわたし」眩しくて気絶しそうだ

うらやむべき眩しさ

噴水に乱反射する光あり性愛をまだ知らないわたし(小島なお)

第50回(2004年)
角川短歌賞
「乱反射」より

若さを失なった者に、まことうらやむべき青春の断片である。

「乱反射する光」を、わたくし式守では、もう生み出せない。
取り返せない青春を苦くおもう。

ここにある「まだ」の、なんと芳醇な「まだ」だろうか。

小島なお「性愛をまだ知らないわたし」

おまぬけ少年の「まだ」

けろりと忘れ果てていた過去が他人に残っていた。

あのクラス会に行くべきではなかった。

わたくし式守は、夏休みの目標を、「初体験」と言っていたそうな。

あ~恥ずかち~~

小島なお「性愛をまだ知らないわたし」

絵に描いたようなうすらばか

式守の「まだ」などこれがせいぜいでした。……

「乱反射する光」

身に浴びる噴水の陽光が、さながら神の賜物として、〈わたし〉の肌から心へとしみている。

一陣の清賴が蕭々として、十代のあやふやなあしたを、この一首は飾る。
迷わせるあれこれがある。

それゆえの美しさ。

乱反射する光

「まだ」を包んだ「乱反射する光」に、わたくし式守は、そのあまりの眩しさで気絶する。

小島なお「性愛をまだ知らないわたし」

やがて「まだ」を失なう時がくる

しかし、そこにあるのは、おまぬけ少年の「初体験」ではない。

たしかに「まだ」がなくなる。
されど、「性愛」はそこに、真の光芒を放つであろう。

「性愛」の美化に過ぎるだろうか

お相手とかたみにあまねく敬助して、この世の時間を持ち会う物語が始まる。
時は、明朗と、未来を指さす。

小島なお「性愛をまだ知らないわたし」

一首を「わたし」で止めたこと

可憐であって、しかし、大人になる迷いへの抵抗を秘めておいでではないか。

わたくし式守には、そう映る。
そのように読める。

この一首の「わたし」は、生きている人すべての「まだ」もいったん止める。

なるほど体言止めとは、このようになせば、効果的らしい。

小島なお「性愛をまだ知らないわたし」

未来に豊富な幸福を

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