田宮朋子「機嫌よく生きませうね」姉妹の支え合う清らかさよ NEW!

機嫌よく生きませうね

田宮朋子「機嫌よく生きませうね」姉妹の支え合う清らかさよ

「機嫌よく生きませうね」といふ姉の言葉は春の陽のやはらかさ(田宮朋子)

柊書房『星の供花』
(夜の秒針)より

こういう人はいい。ぜったいにいい。
また、こういう声は、言われなくてもわかってる、とはならないものなのである。

意識的にそうしようとしないでも、その「機嫌よく」ができればいいのはもちろんであるが、これが、そうそううまくいかないものなのである。

たとえば
仕事

仕事が大好きな人もおられようが、おおかたは、仕事などいまいましいばかりなのである。
されば機嫌よく働きたいものである。
が、できるか、いつもいつも機嫌よく働くなんて、そんな簡単に。

頭なんて使わないことだ。身体(からだ)だけ動かしてみることだ。
とは思うが、何も頭脳労働の従事者じゃないわたしでも、頭を使わないわけにはいかない。
頭を使えば、結果、理不尽なことまことに多く、耐え難きを耐えて忍び難きを忍ぶことになる。

だったらプライベートに期待してみよう

いま月がきれいよ

田宮朋子「機嫌よく生きませうね」姉妹の支え合う清らかさよ

「いま月がきれいよそれが言ひたくて」受話器に姉のこゑ澄みとほる(田宮朋子)

『同』
(ひかりの重さ)より

人間のどんな遺伝子が組み込まれてなのか、月を仰ぐと、人間は、気持ちが少し落ち着く。
風に吹き払われて出現する月はなおよい。

夜空の月は、人間を慰撫すること、万葉の頃より甚だしくやさしい存在だった。

ひさかたの月夜(つくよ)を清み梅の花心開けて我が思へる君(紀郎女)

いいよなあ
万葉歌人の
相聞歌って

これが星だとちょっと違うような

億年の星の一生(ひとよ)を

億年の星の一生(ひとよ)を手花火にたぐへるほどの時間もあらむ(田宮朋子)

『同』
(日永見舞)より

田宮朋子「機嫌よく生きませうね」姉妹の支え合う清らかさよ

星はこういうものに合うようで

今、目の前に、銀砂を散らす星の神秘がある。
それは花火であるが、天体の、崇高であり、かつ麗美な星のきらめきに似ていよう、と。
今この時が、そのいずれかの星の一億年にも覚えられる、と。

美しい。

胸のすく清らかさ

田宮朋子「機嫌よく生きませうね」姉妹の支え合う清らかさよ

億年の星の一生(ひとよ)を手花火にたぐへるほどの時間もあらむ(田宮朋子)

「いま月がきれいよそれが言ひたくて」受話器に姉のこゑ澄みとほる(同)

「機嫌よく生きませうね」といふ姉の言葉は春の陽のやはらかさ(同)

今回、田宮朋子の『星の供花』より抽出した三首を、並べ替えてみた

その声は姉の声。
姉妹の情愛は味わい深く、何度でも読み返してしまう。

言葉を交えることの幸福よ。
それぞれの人生を支え合うのに何もかもこれで足りてくれそうではないか。

なんて清らかな。

胸のすく清らかさに、
一読者のわたしは、また明日の朝を迎えられる。

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