『短歌往来』2026年8月号の「今月の新人」をおもしろく読む。
あやめさんの紹介。連作「生命」掲載。
1首引く。
弟のスペシャルティーコーヒー味わいながら滝の音と花の香りと(あやめ)
筆者はこのような歌に(そもそもこのような情景に)弱い。
“情景”と言ってみた。
いい大人の女性が、弟と「どこで何をしている?」とツッコミどころが満載だ。
禁忌とは言わない。そのような張り詰めたムードはない。
ならば大きなお世話なのか。
なぜか心に残って、筆者は、この歌が愛しい。
(前略)
(作者は長くバレエと音楽をしていて(註・式守))今まで身体で表現してきた感覚を言葉でも表現できるようになりたい。連作に添えたプロフィールより
何なんだ、これは。
背筋がシャキッとなるなあ。
弟のスペシャルティーコーヒー味わいながら滝の音と花の香りと
ふだんは別々に暮らす大人になったきょうだいが、実家や旅先で久しぶりにじっくり話しているのか。わからない。
「弟のスペシャルティーコーヒー」という表現、ここには、こだわりを持ってコーヒーを淹れてくれる弟のありようがよく伝わる。と同時に、それだけ姉をたいせつにしていることも。
弟さん、単に「コーヒー」と言わない。わざわざ正式な呼び方をしている。
弟のちょっと得意げな顔や二人の時間を特別にしようとしている静謐で美しい時空がある。
ここは、なんとも贅沢に「滝の音」と「花の香り」が同時に存在している。
一体全体ここはどこなんですか、ということだ。
大自然の中にあるテラス席で滝が見えるおしゃれなカフェにいるのかも知れない。
あるいは、部屋の中で弟が淹れてくれたコーヒーのすばらしい香り(フルーティーな花のような香りか)と豆を挽いたりお湯を注いだりする音(これが心地よい水の音のことか)を表現した、とも受け取れようか。
そして、この二人はどんなきょうだい。
この歌に、余白がある。正解が一つではない。
(もっとも短歌とはなべてそんなものと言われればそれまでであるが)
筆者(わたくし式守)は、この一首を、理屈抜きで美しく愛しいと思った。
あやめさんにおかれましてはこれからもどうぞ佳きお歌を。
式守操

