
目 次
歌集を出版する決断にどんなハードルがあるか
歌集を出したい、となっても、コンクールに出詠するのとはわけが違うのである。
ハードルがある。それも高いハードルが。
〇 経済的なハードル
〇 時間的なハードル
〇 無意味ではないか
歌集を出すことに躊躇している人に、歌集を出すか出さないか、その判断のご参考までに。
わたくし式守操は、事前のハードルを、このように越えて、最終的に、出版する決意に至りました。
経済的なハードル
要するに金がかかる、
ということなのであるが、100万や200万、痛くも痒くもない人などたとえ世の中が好景気にわいていても少なかろう。
こんな
データが
そして、その生活費は、約12.5万円。
(2023年調査)
若者に歌集を出すお金の余裕などないのである。
では、わたくし式守はどうか。
2人世帯の60代であるが。
こんなにお金をもらっていないぞ。生活費はもっとかかっている。
わたしもまた、歌集を出すお金はない。
という展開になろうか。
が、わたしは歌集を出版した。
なぜできた。
なぜ?
40代中盤まで働きづめに働いてきた。それはそのまま、大きなお金を使う機会はない、ということでもあった。
蓄えが違うのである。
結婚費用と新婚旅行に多少のカネはかかったが、住まいは賃貸だし、車など不要の暮らしだった。
もっとも医療費はよそ様よりかなりかさむ事情がわたしたち夫婦にはあったが。その事情はでも、公的補助を受けられることでもあった。生保の保険金収入もあった。収支の時間的経過を慎重に計算すれば乗り越えられない話ではなかった。
歌集を出版する資金をどう調達したらいいか。
できれば有益な体験記をここにご用意したいところである。が、どうもわたしに、その資格はないようだ。
もっともこれは同じ条件か。
お金は用意できた。が、ポン、とは出せませんでしたよ、と。
時間的なハードル
カネ?
あるよ。
となったとする。
しかし、与えられた時間も、あるよ、とはいかなかろう。
40代中盤に清掃のフリーターに転身して、家庭のことに時間を費やせるようにはなった。
だからと言って、減らせた勤務時間は、さらに短歌の時間にもあてられたわけではないのである。
短歌の勉強は、時間の使い方を工夫してこつこつこつこつ進めてきた。
ただし結社の所属は諦めた。諦めざるを得なかった。
ここで歌集の準備の時間まで捻出するのは精神的な負荷がかかるのである。
そもそも精神的な負荷に耐えられないから清掃のフリーターに転身したんじゃないか。
現実の話として、企業内で責任ある業務に就いているより身軽である、と言っているだけである。
さてどうする。
が、どうするもこうするもあるまい。他の人であれば、数か月かかるところを、数年かければいいだけではないか、としてみた。で、事実、そうした。ゆっくり歌稿をまとめた。
ここで人生いちばんの根性を出せば、ゆっくりしないでできたかも知れない。が。そんなことをして、心身の疲弊を招くことがあれば、妻とわたしは共倒れである。
無意味ではないか
カネ?
あるよ。
歌稿?
完成させちゃうよ。
と、なったとする。
でも、意味あるのか、これって。
これ~
これこそがわたしには難問だった。
まことにまことに難問だった。
たとえば車に150万かかったとする。
ほしかったんだよねえ、と。
クルマ大好き。ドライブしようよ、とかね。
これなら150万の意味はありますよね。
でも、歌集の出版で、それをたとえ100万に抑えられたとしても、この人生に何を得られるのよ。
誰からも言及されない。
いや、言及されないでもいい、としようか。負け惜しみではなく。
が、ただひとりからでいい。何か一つさえ感じてもらえないとしたらどうよ、ということですよ。
捨て身で発言すれば、お金をドブに捨ててしまうのと同じでは。
では、よし、そのお金が自販機で缶コーヒーを買う程度の負担だったと仮定してみようか。
だとしても、歌稿をまとめるのに、精神的な負荷が少なくなかった、その見返りはどこにあるんですか、ということですよ。
で、
どうしたか
どうしたか。
読んでもらえるように可能な限りは努力をする。可能な範囲の、その可能なとやらは、かなり狭いものでしかないが、こつこつこつこつ努力はする、とした。
こつこつこつこつ50代を歌に費やしたのである。そのデンで、60代は、式守操の認知に費やしてもいいじゃないか、とした。
あ、その人?
聞いたことあるよ
この程度の目標に努力を費やして、しかし、何も結実しなかったことが、人生を、そんなに奪ってしまうことだろうか。
要は、自分を巡る世界がどうなっていようが、いい歌を詠めばいい、それだけの話なのではないか。
さて
その結果
結果、やはりまったくの無意味に終わったとする。
それはどうする。
あきらめる。しかたないではないか。
無益だったことこれまでの人生に腐るほどあった。
そのように肚を括った。
そのように肚を括って、わたしは、それまでにストックされた二千首のファイルを開いた。
お礼状をいただく
献本のお礼状を届けてくださった歌人がいらっしゃる。
すなわち、ここに至って、言及がまったくないことはないことを知った。
ご多忙ななかを、と思えば、感が極まる。
お礼状に好きな歌のリストを添えてくださる方もおられた。儀礼ばかりでもないことが伝われば、こちらも、目をうるませることになる。
ありがとうございます。生涯、たいせつにしまっておきます。
いい歌を詠みたいものだ、と思った。
強く、強く思った。