
目 次
トイレ=切実
脳内のトイレマップはアプリより精密である頻尿のわれ(式守操)
佐伯裕子・選:題詠「トイレ」より
NHK短歌の佳作に、1首、佳作で採っていただきました。
題詠「トイレ」の佳作はおちろんうれしかったのですが、「トイレ」以外の投稿は、一首も採られませんでした。
もっともわたしには2首も3首も採られることなどめったにないが。
ただ、今回は、採られることと採られないことの差で、ある単純なことを知り得た。
まこと単純な。
眼高手低

(草稿)
東京都トイレマップが精密に脳内にあり急げこっちだ
作者(それはわたくし式守であるが)の観点が、わからないことはない。
トイレが近くにないと困るわよねえ
ただ、式守の好きな歌人たちであれば、これを、こうで終わらせないだろう
どうしたらいけないかをわかるまでにはなったのである。
ああ
眼高手低
いかにも無念
切実な詩にしたいのだ

1 言い足りていない?
恥の上塗りのようでナンであるが、(草稿)を、改めてここに。
東京都トイレマップが精密に脳内にあり急げこっちだ
切実か否かであれば、これはこれで、切実なのである。
式守はすぐおなかをこわす。
式守はすぐおしっこに行く。
日に10回以上行くなんてざらにある。
泌尿器科に行けよ、泌尿器科
いや、こうなるともう精神科の領域やろか
この自分会議を歌の体裁にしたところで人さまに訴えられやしないのである
トイレに駆け込む〈わたし〉よりトイレの分布を熟知している〈わたし〉を

2 その精密性の愚かしさを
短歌は、〈わたし〉の文学である。
であれば……、
トイレに駆け込む姿よりも、トイレマップが、そんなつもりはなかったのに、それはもう精密なトイレの分布図が脳内に埋め込まれていることは、よっぽど〈わたし〉を写し出していないか。
「切実」な<わたし>なんてもんは、トイレに駆け込む姿なんかより、平常時でも、トイレが頭から離れないそのありさまなんじゃないのか、むしろ。それもアプリより精密とくれば。
どんなトイレマップなんだよ~
これが〈わたし〉に連体していればいい
構造は単純でいいんだよ~
(完成)
脳内のトイレマップはアプリより精密である頻尿のわれ
短歌も「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」だった
勝ちに不思議の勝ちあり
負けに不思議の負けなし松浦静山『剣談』より
これまでに採用された短歌は、たまたま不思議と採用されるに足りただけだった。
たしかに採用に足りる表現があったわけだが、それはたまたま。
むろんそれはそれで恥ずべきことではない。
(恥じては選者の先生に無礼であろう)
ただ、採用されなかった作品は、たまたま不思議と採用されなかったわけではなかった。
採用に足りるだけの表現を、これでもか、とねばった上で投稿していなかったのだ。
経験値など上がるわけがなかった

採用と不採用の過程の差の検証を、有意義なものにできないのは、採用も不採用も、どちらもゆきあたりばったりだったからだろう。
結果は両極端でも、その過程は、同じだった。
同じものの差をいくら検証したって異同など見つかるわけがなかった。
不採用の作品に、ここは別の語彙にした方がよかったのか程度の検証をして、それでおしまいだ。
これではいつまでたったって、たまたま頼りの出来を待つしかない。
不採用作品の検証とはそれなりの実作過程があってはじめて意味を持つものだった
同じ境遇の方へ声援
・言い足りているのか
・<わたし>はその程度なのか
おれのトイレ>トイレアプリ
そう、ただそれだけ。
では。
短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。
いっしょにいい作品を世に出せるようにこれからもがんばりましょうね。
