NHK短歌佳作「運」表現したいことに余計なことは除外したい

何の「運」でいくべきか

NHK短歌佳作「運」表現したいことに余計なことは除外したい

重心をやっと定めた子の傘が進む低さで追いかける雨(式守操)

佐佐木定綱・選
題詠「運」より

NHK短歌佳作に、一首、採っていただきました。

「運」と言えば、運不運、運命などの主題がまず頭に浮かびました。短歌にしたいモチベーションが上がるイメージが、いくらかないこともありませんでした。

でも、もっと端的に、運ぶ、なんてことで歌作することにしました。そのイメージの方が、わたしに、ずっと鮮明にあったからです。

今回も、短歌を始めて、初の採用を目指している人の参考に、歌作過程のレポートを

運ぶ

わたしは清掃作業員なので、ゴミを運ぶ、清掃道具を運ぶ、道具を運ぶための道具を運ぶ、アイデアレベルでは、いくらでもありました。

そして、その中のいくつかは、完成させて、今回の提出に含めました。

採っていただいたのが、冒頭の作品だった、ということです

雨も運ばれている

NHK短歌佳作「運」表現したいことと余計なことを識別する

半世紀は昔の話であるが、わたしに、傘が、雨風になかなか落ち着いてくれなかった記憶がある。
子どもとはそんなものかも知れないが、わたしは、とにかくからだのサイズが小さかったことにもよるかと。

傘をちゃんとさして歩くなど、わたしに、難易度の高い運動だったのである。

仕事場のマンションで、朝、雨の中の屋外作業をしていると、昔の私と同じように、傘に難儀している姿を見ることがある。

かわいい。
いとしい。

抱きしめたくなる

NHK短歌佳作「運」表現したいことと余計なことを識別する

傘の表面は、打たれた雨を、やがては地に滴にして落とすのであろうが、しばらくは、子の傘によって運ばれているのである

とっかかりにこんな下作業を

NHK短歌佳作「運」表現したいことと余計なことを識別する

とっかかりとして

(草稿)

重心をやっと定めて傘をさす子の背を遠く見ているは母

こんな類をいくつか書き出してみた。
これが完成ではない。

とっかかり。とっかかり。

かつてはこの程度で提出していて、当然であるが、この程度で採られることはありませんでした

草稿を要約する

小学校低学年の子がこれにて雨から身を守れる

表現段階へ

このあたりで本格的にどう作歌するか、へと。

言っていることは、上の2の趣旨とまったく同じであるが、そこに、短歌的な抒情をどう生み出したらいいか、それは表現次第、というわけである。

かつては、素案のままで提出していて、その素案をどう詠むか、その「どう」まで至らない段階のものを提出していた、というわけである

お題は「運」だったハズ

上の(草稿)では、明らかにまずかろう点が、2つあるかと。

その子を見たのはオレ

傘で雨を防御していることを、わたしは、傘が雨を運んでいる、との認識をして、そこを表現したかったのではなかったのか。

「運」を帯びていない

わたしがいまここで表現したいことは、子の無事を祈る母ではない。

マンションの屋外作業をしていると、その子の母とその子を送り出すことが、たしかに少なくはないが。
(マンションの清掃作業員がなべてそうではないが、わたしには、珍しい場面ではない)

素直に、素直に

当初は、こうだった筈だ。

傘の表面は、打たれた雨を、やがては地に滴にして落とすのであろうが、しばらくは、たしかに子によって運ばれている、と

作者(それは、わたくし式守のことであるが)は、傘の表面の雨を、雨がそこで静止しているわけではないが、そのまま先へ進んでいる、との印象を持ったわけだ。
で、先へと進めているのは、少年、もしくは少女である、と。

だったらそこを、ピンポイントで、そのまま写せばいいではないか。

(草稿2)

重心をやっと定めた子の傘が進む低さで運ばれる雨

完成へ

上(草稿)では、「運」を、強引に歌に持ち込んでいる印象がないでもない。

ここは慎重に

どうしよう、どうしよう

追いかける、とでもしておけばよかろう

(完成)

重心をやっと定めた子の傘が進む低さで追いかける雨

そして、仲間へ

チェックリスト

・自分の見た景色に余計な演出を持ち込まない

・自分の見た景色はどこだったかそこをピンポイントで

・素直になれば要らざる言葉を用いない

・構造は単純である

子どもの傘
=雨粒が載っている

そうそう、ただただそこを見た。そして、ただただそれだけの話。


今回のレポートは以上です。
短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。

いっしょにいい作品を世に出せるようにがんばりましょうね。

NHK短歌佳作「運」表現したいことと余計なことを識別する

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