NHK短歌佳作「泣」題にしがみつくがでも題に没入しない加減

厄介な題である

リモコンで神の如くにヒロインの死にゆく笑みの時間を止める(式守操)

佐佐木定綱・選
題詠「泣」より

NHK短歌の佳作に一首、採っていただきました。

題は「泣」である、と。
これはいくらでもできそうだ。当初はそう思った。

わたしによくしてくれた方々を遠ざけるようなれど、これまで、ずっと泣いて生きてきたようなものである。このまま泣くだけで人生を終えてしまいそうなほどある。

それでいい、と腹を括ってもいた。
50までをそうして生きてきた。

が、そう考えると、「泣」に、詩など要らなくなってしまったではないか。
そんなことはない筈なのである。

今回も、短歌を始めて、初の採用を目指している人の参考に、歌作過程のレポートを

何に泣いている

NHK短歌佳作「泣」題にしがみついてでもそこに没入しない

わが人生と切り離したところにわが身を置いて、この世界に、いかなる「泣」があるか見渡してみないと

(草稿)

泣く以外できないことで泣くこともできなくなってナンタラカンタラ

わたくしの歌作のたちあがりはだいたいこうなってしまう。
これはわたしにほんとうに歯痒い。

泣く以外できないところって

それはどこか探しているんでしょうに

(草稿2)

目の前で人が死にゆく苦しんで苦しみぬいてナンタラカンタラ

作者は、それはわたくしなのであるが、どうも人が目の前で苦しそうなことに耐えれれないらしい。

このあたりを
とっかかりにしてみようか

人が苦しむ苦しみを歌にするには

NHK短歌佳作「泣」題にしがみついてでもそこに没入しない

(草稿3)

元気よく家に帰って元気なく寝ている母にナンタラカンタラ

イケナイ、イケナイ

これでは思い出の母だけで終わってしまいかねない。

(草稿4)

病院のベッドの妻はヒロインが死にゆく笑みをナンタラカンタラ

イケナイ、イケナイ

これではこれまでの妻だけで終わってしまいかねない。

されど

NHK短歌佳作「泣」題にしがみついてでもそこに没入しない

「ヒロインが死にゆく笑み」のイメージをキャッチした。

これならわたしのイメージしたところのものが短歌にできるかも知れない。

死んじゃう人は死んじゃうのか

NHK短歌佳作「泣」題にしがみついてでもそこに没入しない

悲劇のヒロインはどうしても死ぬ以外の運命は負わされていないのである。

実人生の方がずっと
奇跡が起きていように

わたしは、あまりに悲しいヒロインの死の直前は、リモコンで停めてしまうことがある。
気の毒でしかたないからだ。

(草稿5)

リモコンをあたかも〇にヒロインの死にゆく笑みの時間を止める

よし、これでいこうか。
あとは「あたかも〇に」を手当てする。

完成へ

(決定)

リモコンで神の如くにヒロインの死にゆく笑みの時間を止める

「神の如くに」としてみた。

新味のない修辞だが、たとえ相手はドラマでも、「死」をこの手で「止め」ようとしているのであれば、神にも似るではないか。
ならばよし、とした。

そして、仲間へ

チェックリスト

・たとえばこの題である「泣」の自分の姿を描かない

・そこに何があった

・それをどう思った

・ねばれるものだ

・一首の内部構造は単純で足りる

リモコン=再生停止
(神=死を停止)

そう、イメージされていることは重いものであるが、それだけの話……。


今回のレポートは以上です。
短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。

いっしょにいい作品を世に出せるようにがんばりましょうね。

NHK短歌佳作「泣」題にしがみついてでもそこに没入しない

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