
目 次
マネキンを短歌にしてみる
この店の夜のマネキン首はなくこのごろかるく笑顔をよこす(式守操)
選者:黒瀬 珂瀾(21.02.22)より
3席でした。【評】が付きました。
【評】不気味ですね。頭のないマネキンなのに「笑顔」を感じさせるとか。体が消えてもニヤニヤ笑いだけが残る『不思議な国のアリス』のチェンシャ猫のような、現代の怪談歌。
毎週のようにどっかこっかで採られる投稿者がおられます。
それを思えば、わたくし式守の、この採られるさまは、たまたまのごときものかも知れません。事実、たまたまです。
が、非才を嘆いて投稿を続けている者に、それがいかにたまたまだったとしても、わたくし式守の名で自作が掲載されたよろこびは、まこと小さくないものでした。
なぜかマネキンが好き
マネキンの短歌は、たまに挑戦してきました。
今回、このマネキンは、首のないマネキンである、と。
とりたてて珍しいものではありません。
わたしは、マネキンを眺めることが好きです。
まずそれをただ造形として。
首のないマネキンとたいがいは白人女性を思わせるマネキンとの異同。
白人女性的マネキンを、最近は、見なくなってきたように思いませんか。
この日本人の文化観の変遷。
そう、マネキンにおもうことが、わたしに、日々、まことに多々あるのです。
ただ、夜にこれを見るのはちょっと。
気味のいいものではありませんよね。
で、そっちのテイストに挑戦してみて、今回、採っていただいた、ということです。

まず下句ができて上句でしばらく迷う
1 まず下句ができて
原型=決定:このごろかるく笑顔をよこす
これはすぐこのままでと決まりました。
ここで、
わたしをじっと見つめておりぬ
とか
うすらわらいのくちびるのはし
とか
あれこれ、他の修辞が浮かばなくもありませんでしたが、こういうのって、その好悪がいずれであっても濃密な関係性があるお相手との場面の修辞ではないのか。
原型でいく
2 上句ですこし迷う
原型:帰る夜をマネキンのあり首はなく
1年くらい前であればこれでしまいにしていたかも知れない。
でも、「夜」であることは外せないにしても、「帰る」って何。
残業帰り?
どんな「夜」か限る必要がある?
それよりもマネキンてどこにいたの?
道端に?
ちょいとだんなさん、とか?
推敲:この店の夜のマネキン
説明的な印象がないでもないが、これくらいは、短歌性を損なわないだろう。
原型では、たかだか場面設定に、区切れ、というほどのことはないが、「を」という、音は弱いが、一呼吸置かれて結句までターボがかからないのである。
下句と呼応する、と判断する
3 これを完成に
完成:この店の夜のマネキン首はなくこのごろかるく笑顔をよこす
夜のマネキンに、いかにもな、それでいて何の効果も生まない修辞は、必要あるまい。
また、一首における構造も、単純そのもので足りようか。
ふりかえって/そして、仲間へ
・窮屈にならないように
・負荷のかかる語彙は避ける
・一首の内部構造は単純で足りる
夜のマネキン=かるく笑顔を
そう、ただこれだけのこと。
以上。
短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。
いっしょにいい作品を世に出せるようにがんばりましょうね。
