
目 次
お題を考え過ぎてしまうきらいあり
昼食を逃してつまむおにぎりにコピーの音がひえびえひびく(式守操)
田村元・選
題詠「食べる」より
NHK短歌佳作で一首、採っていただけました。
わたしにはハードルが高いお題でした。
アイデアがないことはない。
好きな食べ物や嫌いな食べ物くらい誰だってあるからである。
あと、
ソーメンやざるそばを食べると、どうしていくつになってもこぼしてばかりなのか、そいうコンプレックスのこととかもあるか。
だったらそれを短歌にすれば?
たしかにそれはありだ
ところが、そこそこ体裁よくまとまめてみたのに、いくら読み返してもすこしもおもしろくないのである。
しまいに
食べるとは何か、動物や植物の命をちょうだいしている人間の哲学の領域に入ってしまったではないか。
それを短歌にしたっていいのでは?
たしかに
しかし、収拾がつかなくなってしまった
という過程でしたが……、
健全なお昼がなかったこと

(草稿)
ナンタラカンタラひえびえひびくコピー機の音
企業のサラリーマンだった時に、何時になってもランチにありつけなかったことが、少なくなかった。
意味があるとも思えない会議のための資料の作成とか。
なんでおれよ。
どこの企業にもごまんとある話じゃなかろうか。
気の毒に思ってくれた人がコンビニでサンドウィッチやおにぎりを買って来てくれる。
渡る世間は鬼ばかりではないのである。
が、それもやがて鮮度が落ちて、あとはじゃんじゃんコピーするだけの段になって、しなってしまった食べ物をやっと手にするわたしであった。
短歌は<わたし>の文学だけれど
かつての<わたし>に、そのような人生があった。
と相手に迫るようにしてはいけない。
ん? どういうこと?
同情してもらうことが目的の作品にならないように、と言えようか
たしかに劣悪な労働環境だった。
今でもいまいましいし、どこかで同じような精神的負荷があった人たちと座談会を開きたいくらいである。
されど、かわいそうなボクの成分は、作品がさもしくなって、おもしろくならないものなのである。
リアリズム

(推敲)
昼食にやっとありつくサンドウィッチひえびえひびくコピー機の音
今回の〆分で、不採用は、だいたいかわいそうなボクの成分が多かったんじゃないか。
不採用を読み返してみて何だかそんな気がする。
かわいそうなボクの短歌を否定はしない。
同情をひく措辞と調べがおもしろくない、と言いたいのである。
完成へ
されば
コピー機の音が響くさまに重点を置いては?
それとサンドウィッチって音が響く感触?
(完成)
昼食を逃してつまむおにぎりにコピーの音がひえびえひびく
そして、仲間へ
・不愉快だった体験は完成までねばれるものだ
・自己憐憫が目的の措辞は絶対回避である
・登場アイテムを吟味する
・一首の内部構造は単純で足りる
おにぎり=コピーの音
そう、それだけ。
あとは、どのようなおにぎりで、どのようにコピーの音がしていたか……。
今回のレポートは以上です。
短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。
いっしょにいい作品を世に出せるようにがんばりましょうね。
