NHK短歌佳作「ボール」何を詠むかその「何」の真実とは何か

「ボール」と言えばボール拾いが

また一人ボール拾いが退部してレギュラーよりも駆けまわる夏(式守操)

佐佐木頼綱・選
題詠「ボール」より

MHK短歌佳作で、一首採っていただきました。

他のお題はどれも不採用でした。
早速、採っていただいたこの作品とよく比較してみました。

不採用を改めて読み直して発見したことの、今回は、表現したものが、一言、つまらない、ということになるか。

最近、自分がいかにちゃんと表現していないか、その作品に、瑕疵を見つけることができるようになってきたが、そこに、いくら表現に翻ったものがちゃんとあったにしても、それが、要は、ありきたりではどうにもならない。

こういうことなのである。

・表現らしい表現の痕跡はある。それ自体はいい。

・それプラス、新味がほしいところを、平凡な着想に落ちている。

今回も、短歌を始めて、初の採用を目指している人の参考に、歌作過程のレポートを

補欠の補欠だったこと

わたしは、中学時代、バレー部で補欠の補欠だった。

俺だって試合に出てかっこよくアタックを決めてみたかったよ。
しかし、試合出場の経験は、なかった。

体育館のない学校だった。そんなバレー部でずっとボール拾いだった。
よく続けたものだ。

似たような存在は、実は、他にもいた。
が、彼らは、やがてベンチ入りを果たして、ユニフォームのゲットを狙っている。そこがわたしと違う。

わたしにやめられると、将来を期している彼らは、雑用という、たとえばボール拾いという仕事が増えてしまうのである。

強硬な引き止めに遭った。
で、結局、ずるずる続けていたのであった、と。

NHK短歌佳作「ボール」何を如何に詠むかの「何」について

何のためにそんなことをの表現をしたい

(草稿)

レギュラーのためのボール拾いまた一人減って夢なき返球をする

定型を順守していないが、それはまだ(草稿)だからとして、まず全体的に飲み込みにくい。

「ボール拾い」と「夢なき返球をする」は、互いに呼応して読んでもらえなくもないが、腰の句と四句目にまたがって「また一人減って」としているところに、飲み込みにくいような、窮屈なような。

「また一人減って」はカットできない。
下積みのそのまた下積みとして日に日に愚かしさが増していることを、「ボール拾い」なる語彙に収めてみたかった。

落ち着いて整頓する

「レギュラーのための」は要るか?

そもそもボール拾いはレギュラーじゃないからじゃん

改稿①

退部したボール拾いがまた一人増えて夢なき返球をする

「返球」の機会がいや増す。
でも、一瞬、「ん?」とならないでもない。

改稿②

ボール拾いがまた一人退部して夢なき返球をする

これなら飲み込めようか。
が、これまでだって「夢なき返球」だった。

その心情に至った経過と「夢なき返球」が、解離していないか。

何を如何に詠むかの「何」について

「レギュラーのためのボール拾い」の「レギュラーのための」は不要だと判断した。
が……、

「レギュラー」の扱い

「ボール拾い」を如何に詠むかに「レギュラー」なる名詞はやはり使いたい。

短歌では、「ボール拾い」の方が、「レギュラー」よりも存在が大きいのである。

レギュラーのための

「ボール拾い」を補強してはいるが、これでは、自虐的にそう言っている印象がある

レギュラーよりも

「ボール拾い」という下部構成員が、こうすれば、短歌においては、逆に上位に立てる

(もう少し)

また一人ボール拾いが退部してレギュラーよりも駆けまわる夏

独自性

何を如何に詠むかが問われている、と考えること自体は、間違った考え方ではない筈だ。
事実、短歌に、そこをたのしむところが、わたしにある。

ただ、せっかく何を如何に詠むかに工夫を凝らしても、「何」に、独自性を、その人生に避け得なかったものがなければ、たとえ体裁のいいものに仕上がっても、読んで、つまらないものでしかない。

他の方の採用作品を読んでも、○や△の、それぞれの題で、着想が新鮮である。

自作の不採用との比較でも、その表現に、差ははっきりと見られる。

具体的にどの作品とどう比較したかは、何かしら差し障りがあってはいけないので、ここに引かないが、採用されるか否かなんてことは、こんなシンプルなことによるようだ

ついては

「ボール拾い」は、あくまでどこまでもボール拾いであって、ボール拾いはボール拾いのままに、この世界に、そのボール拾いとは何か、その真に接近すべきなんじゃないのか。

勝った負けたののレギュラー選手の試合もよいが、一方に、どこかに消えたボールを必死に探す少年もいて、むしろそれを表現したかったんじゃないのか、そう言いたいのである。

今回の〆分の投稿作品で、他の不採用作品は、何を如何にで、より納得できるまでのねばりが絶対的に不足していた気がしてならない。

その人生に避け得なかったものは何だったのか、ということのであるが。

これを完成に

(完成)

また一人ボール拾いが退部してレギュラーよりも駆けまわる夏

そして、仲間へ

チェックリスト

・真実は何か

・具体的にそこに何が

・一首の内部構造は単純で足りる

ボール拾い>レギュラー

そう、ただそういうこと。


今回のレポートは以上です。

短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。

いっしょにいい作品を世に出せるようにがんばりましょうね。

NHK短歌佳作「ボール」何を如何に詠むかの「何」について

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