読売歌壇「消火器」そこに何があって何を感じたのかに比重を

消防訓練のたるんだようすを表現してみたい

消火器の訓練用をかるがると次の人へと渡すほほえみ(式守操)

選者:黒瀬 珂瀾(22.03.15)より

消防署指導の消防訓練に参加した経験は誰にもあろう。
軽いですよね、あれ。あの消火器。

アタリマエですね。訓練用です。

「火事だあああ」って大声で叫んで消火にあたりましょう、と。
この「火事だあああ」を、本当に、迫真の演技でした人を、これまで見たことがない。

棒読み。
で、次の人にうすく笑って消火器が渡される。

たるんでるなあ

でも、よくない、これ

今回も、短歌を始めて、初の採用を目指している人の参考に、歌作過程のレポートを

何を表現したかったか通読後にわかればよい

そこに本当の炎はないが、消火器を使って、その消火器は、次の人へと手渡される。

消火器は指一本で支えられる重さである。
「火事だあああ」なんて叫ぶことはなく、人々は、なんだか照れつつも消火器をつなぐのである。

このような短歌にふさわしい語彙はどんな語彙なんだ。

あ、いや、これを、麗しい語彙で短歌に仕上げてしまう人もいようか。

いようが、わたしには無理であるし、また、そもそもそのような短歌にしてみたい、との考えはない。

されど消火器がただ軽いではダメ

過去に別のところに投稿した作品があります

(その不採用は)

訓練のための消火器かるがると片付けた手に重しホンモノ

訓練が終えて実戦の消火器は重い、と。
語彙レベルは平凡でいいと言っても、これではダメだ。

なるべく平明にしたいところに「片付けた」なる用言の飲み込みにくさ

比較して重いだの軽いだの「かるがると」で足りように。

そんなのばっさりカットして、そこに、訓練の、どこか平和な、でも、要はたるんでいるさまを描く方がよかろう

この場面に何を見た?

人々は照れて笑っていた

(草稿)

(消火器を)かるがると次の人へと渡すほほえみ

残る上句は、この「ほほえみ」が、ほんとうは不似合いな場面であることがわかればよい。

語彙の並べ方はなお課題である

(草稿)

かるがると訓練用の消火器を次の人へと渡すほほえみ

「かるがると」は、「次の人へと」につなげたい。

(決定)

消火器の訓練用をかるがると次の人へと渡すほほえみ


この語順はこれでよかったのか

「訓練用の消火器」と言った方が自然じゃないのか。
一方で、「かるがると次の人へと渡す」と言った方が自然でもある。

わたしには、その効果を、計量して、比較することができないのである

どっちのがいいのよ?

今回は、敬愛する選者の先生(黒瀬珂瀾さん)に採っていただいたので、これはこれでいい、としておく。

語彙の並べ方の、自前の理論は、今後の課題に

そして、仲間へ

チェックリスト

・状況を正確にしてみることに重きを置いていないか

・何を見て何を感じたかにシフトせよ

・一首の内部構造は単純で足りる

消防訓練=笑って消火器

そう、それを見たのである。それだけのこと。


今回のレポートは以上です。

短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。

いっしょにいい作品を世に出せるようにがんばりましょうね。

読売歌壇「消火器」語彙レベルはあえて平凡な表現をしてみる

リンク