
目 次
「眠り」の実景を描くことに
触れたならたちまち粉になりそうなうすい瞼が病にとじる(式守操)
大森静佳・選
題詠「眠り」より
MHK短歌佳作に、一首、採っていただきました。
たとえば、あくまで便宜的な例として、「眠り」を描くことで、生きているとは言えない人生を映し出す、そのようなことも可能であろう。
いささか観念的であるが、そのような短歌があれば、わたしは、襟を正して読むに違いない。
また、これも、あくまでたとえばとして、眠りの中に天を舞うとか、海底を泳ぐとか。
そのような幻想的な光景を詠んだ短歌もまたあっていい。
しかし、今回のこの題では、ほんとうにそこに眠ることを描きたい。
それはたとえばどんな眠る姿なのか、歌作前は具体的なものがなかったが、ほんとうにそこに「眠る」ものを表現したい。
病ある人
妻が病気である。
死の病ではないが、不治の病ではある。
つらそうな妻の顔色ばかりは、何年いっしょにいても、こたえないことがない。
ということを本人に聞かせては負い目を持たせてしまおうが、わたしの内実は、そのような心情がある。
表現である。
されば、次のようではいけない。
(草稿)コレではダメ
ホニャラララ病に妻が眠っています
粉になりそうだ

これまでいくたりと思ってきたことだ。
ぼんやりとそう思ってきたんじゃない。
その時々を、正にこの修辞で、胸の底に沈めるように思ってきたことである。
(草稿)
触れたならたちまち粉になりそうな病に眠る君を見つめる
触れたならたちまち粉になりそうな病に眠る君を見るのみ
<わたし>が「君を見」ているわけであるが、これは、ここを省いてもわからないか。
省いたそこに、もう少し「粉」のイメージをふくらませてみたい。
(草稿)
触れたならたちまち粉になりそうな病に眠る君は花びら
もっと表現してみよう、との痕跡はうかがえる。
が、そもそも式守の内にある「君」が「粉になりそう」なのは、全身ではないのである。
幻想的なCGアニメーションで、さささささあっと人の実体が粉になって消えてしまうようなものがあるが、「君」をそういうものだとして、これってどこから粉になりかける。
わたしの内に、それは、瞼だ。
(完成)
触れたならたちまち粉になりそうなうすい瞼が病にとじる
完成直前の補足
これは
今のところこうである
とのわたしのおぼえとして
とっかかりの(草稿)はこうだった。
ホニャラララ病に妻が眠っています
まず「妻」は要らないか
「妻」を明示した方がいい場合もあろう
が、たいせつな人であることが想起されればよい、としてみる
たいせつな人が病に眠るとは
瞼が病にとじる、と
どんな瞼
うすい瞼なのであるが
どのように薄い
粉になりそうな
そして、仲間へ
・ふだんどう考えてきたか、その修辞を、そのまま用いることはできないか?
・そのイメージを短歌的な抑揚に乗せる。
・例によって構造は単純で足りる。
病に眠る=瞼が粉に
そう、ただそれだけ。
今回のレポートは以上です。
短歌を投稿していて、もうあきらめかけている人の参考になれば幸いです。
いっしょにいい作品を世に出せるようにがんばりましょうね。
